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海外マネジメントの秘訣、相手の最終学歴を知ること?タイで身に着けたコミュニケーションの極意は|タイ・田端雄介

世界各国から現地のリアルな情報をお届けするアンバサダー発信。7月のトピックは「わたしの一大関心事」です!海外移住をした理由は、人それぞれ。仕事も生活環境も違う9カ国のアンバサダーの皆さんが、今いちばん気になっていることとは?田端さんは、タイに15年以上住み、現地で複数の事業を展開する企業の経営者。仕事やプライベートで現地の方々と接するうちに、より良い関係の構築やマネジメントに取り組んでいます。「相手を深く知るには、教育背景を知ることが重要!」と説く、田端さんがタイで身に着けたコミュニケーションの極意とは?

皆さんは海外で生活する時や、海外旅行に行った際(特に発展途上国や中進国で)に、コミュニケーションが上手くできず、苦労した経験はないでしょうか?

言語の壁、文化の違い、その原因は様々だと思いますが、私が最近気になったことは、その国における教育制度とその歴史の違いによって、コミュニケーションやマネジメントの方法に差が出てしまうということです。逆に言えば、その国の教育制度を知った上で、コミュニケーションに気をつければ、それらの問題が起きにくくなり、もっと快適に海外生活・旅行ができるのではないかと考えるようになりました。

今回の記事では、私が長く住むタイの教育制度と歴史について着目していきたいと思います。

タイ人の最終学歴は4割が小卒以下、厳しい教育水準

まずは、タイ人の教育水準をみていきたいと思います。ここで注目すべきは、タイの労働者人口における最終学歴についてです。

労働局調査によると、2021年9月時点のタイの就業者数は約3782万人。彼らの最終学歴を見ると、就業者の約4割が小学校卒業以下(つまり中学校を卒業していない)ことがわかります。首都バンコクをはじめ、急速な経済発展を遂げるタイで、このような学歴水準であることは非常に驚きです。

社会に出て、仕事をして対価を得るとなると、様々な能力が必要とされます。もちろん、義務教育のみの教育的バックグラウンドでも、日々自己研鑽を積むことで仕事の質を安定して高めていくことができます。自分ではどうしようもできない環境で高等教育を受けることができなかった人も多くいるでしょう。

ただ、仕事で顧客と話をする時、売上・財務を考える時、社員をマネジメントする時など、なかなか一筋縄ではいきません。あくまで私の肌感覚の印象ですが、小学生までの教育で対応できる水準には限界があるのではないかと、感じてしまうことがあります。

タイの教育制度をめぐる歴史

ここで、タイの義務教育や教育制度、無償化の歴史についてみてみましょう。

タイの教育全般の歴史について考える際には、注目すべき3点のポイントがあります。

  • 制度年度
  • 制度化された後の普及化・普及スピード
  • 教育の無償化年度

これら3つの点を考慮したうえで、教育の歴史を知ることが大切です。

タイの教育制度は現時点で、15年間の無償での基礎教育と、最低9年間の義務教育を憲法で保証しています。15年の無償基礎教育は、幼稚園3年、小学校6年、中学校3年、高校3年。最低9年間の義務教育は、小学6年と中学3年です。

歴史を振り返ると、1936年に義務教育は4年間 (*一部地域は7年間)となったあと、

1960年に、ユネスコ会議のカラチ・プランを受け入れ、最低7年間の無償制義務教育の普及を目標にしました。

この動きを踏まえ、タイの教育は義務教育を3年延長し7年制の初等教育、中等教育5年制の7-5制という新しい体制を確立しました。

しかし、義務教育は人々の多くにとって依然として4年であったため、実際には4-3制という初等教育7年間と3-2制という中等教育5年間という形態が続いていました。

このような状況のため、せっかくの改革もなかなか効果を発揮できず、4年間の義務教育しか受けることができない子どもも多いのが現実です。義務教育という名前ながら、なかなか確立した形が浸透しませんでした。

そこで、タイ政府も対応に動き出します。1960 年代から 70 年末にかけ、同政府は7年間の義務教育の普及確立に重点を置き、教育予算のほぼ6割を初等教育に配分しました。

教育制度の歴史と見比べながらまず注目したいのが、前期中等教育が1990年の37.2%から2000年には82.7%に飛躍的に伸びている点です。

また1997年に12年間の無償教育が導入されてから、1995年に35.3%だった後期中等教育就学者が徐々に伸び、2010年には71.7%に達したことも興味深い数値です。

教育を知り、相手を知ろう

また、制度化・義務化と無償化の年度に注目して、考えてみましょう。

最初に目を向けたいのは、1990年の中等教育3年の義務化です。この年に中学1年生となった人は、2024年時点では46歳です。つまり、46歳以上のタイ人は、最終学歴が小学校卒業である可能性が高くなります。

次に注目したい年は1997年です。12年間の無償教育が始まった年であり、高卒者が増えていくきっかけになりました。1997年が高校入学だった人たちは、おそらく今年で42歳です。42歳以上のタイ人は、最終学歴が中学卒業である場合が多いでしょう。。

また、42歳以下では、若年層であればあるほど、最終学歴が高校卒業となる場合がほとんどです。

就学率が100%にならないのは?

タイ政府が義務化・無償化といっても、実態(特に地方)は、無償の学校でも、制服や教科書など教育費以外のお金はかかるケースがほとんどです。

あくまで「教育費無償」という呼び方が正しいかもしれません。つまり、ほぼ無償だが、一部有償ということです

実際に私の娘も地方の保育園に行っていますが、教育費は無償ですが、制服費用など諸々のお金は最初にかかっています。

タイの地方は世帯所得が低く、教育費以外のお金が払えず、義務化・無償化されても学校に通わせることができません。これが就学率がいつまでも100%にならない理由です

重要なのは、最終学歴に応じたコミュニケーション力

タイでは、時代に応じて義務教育の期間が異なるため、年齢を聞けば、その人のざっくりとした学歴を知ることができます。仕事をする上では、この点をしっかりと理解することが大切です。例えば、商談相手や上司、部下らと接する場合、相手の受けてきた教育を踏まえながら、「最適なコミュニケーション」を取ることで、ポジティブな効果を発揮できるのです。

学歴という事前知識・その国の教育の歴史の知識があれば、海外での言語と文化の観点以上にコミュニケーション・会話の方法が変わるのではないでしょうか?

職場では、同僚・部下・上司との関係の中で、もしかすると学歴を知る機会があるかもしれません。話相手の最終学歴を知った上での会話、知らずとも予想した上でのコミュニケーションを念頭に置いてやり取りできれば、相手をより深く知るためのきっかけとなり、これまで以上に円滑な意思疎通が取れると思います。

タイで生活して10年。海外生活・現地の人々との会話やマネジメントで苦労しているという話は毎日のように聞こえてきます。

そして、このような状況を背景に、多くのメディアでがミュニケーション・マネジメントの難しさと重要性を取り上げています。

ただ、そこに教育制度や歴史、最終学歴の視点で述べている例は、ほとんどありません。

タイは、多くの日本人が長期間にわたり居住している国です。だからこそ、少し調べれば、日本語でもタイの教育制度についての情報をそれなりには見つけることができます。

今回の記事をきっかけに、一人でも多くの方が言語・文化の違いだけではなく、会話している相手の最終学歴やその国の教育制度の歴史について興味を持ち、今後の海外生活・海外旅行・現地の人々のマネジメントに活かしてもらえればうれしい限りです。

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